口腔病理アトラス
http://www2.dent.nihon-u.ac.jp/OralPathologyAtlas/Ver1/chapter1/html1/1_f_001.html より筆者改変して引用
乳歯から永久歯に交換が行われる時に、永久歯にトゲのような突起が見られることがあります(多くの場合は下あごの小臼歯)。
こと突起のようなものは中心結節と呼ばれるもので、そのまま放置すると危険です。
折れた場合は虫歯になったり、最悪は永久歯の神経にまで影響を与えて派の寿命が短くなってしまう可能性が高くります。
こちらの記事では
1.はえたての永久歯に突起があることってどういうことなのでしょうか?
2.中心結節以外にもはえたての永久歯は虫歯になりやすいので注意が必要
4.中心結節が折れるとどうして困るのか?またその治療法について
について詳しく書いています。
はえたばかりの永久歯は、虫歯になりやすい状態です。
大人に比べて理由は歯が十分に硬くなっていないからです。
このはえたばかりの永久歯に形態異常がみられることがあります。
噛み合わせによっては大丈夫なこともありますが、当たって壊れてしまうと非常に大きな問題を生じることがあります。
1.はえたての永久歯に突起があることってどういうことなのでしょうか?
これは、専門用語では中心結節と呼ばれる歯の形態異常を示す状態です(最初の写真がそうです)。
歯の真ん中にみられる突起である中心結節が見られる割合は研究者によって異なりますが1~4%位です。
多くの場合、下あごの第一小臼歯もしくは第二小臼歯に多く見られます。
稀に上あごの側切歯と呼ばれる前歯にも生じることがあります。
この突起のような中心結節は、我々モンゴロイド(黄色人種)に特異的にみられる形態異常です。
この中心結節が問題になるのは、噛み合わせた時に、噛み合う上あごの歯がこの中心結節を壊してしまうことにより生じます。
起こる問題についてはたくさんのパターンがあります。パターンと治療法については4のところで詳しく説明します。
2.中心結節以外にもはえたての永久歯は虫歯になりやすいので注意が必要
はえたばかりの永久歯は成熟した大人の永久歯とは区別されます。
我々歯科医ははえたばかりの永久歯のことを「幼若永久歯」と呼び普通の永久歯と区別して考えます。
この理由は、以下のことによります。
①はえたばかりの永久歯は歯の硬さが十分ではない
歯の硬さが十分ではないと言うのは、どういうことかと言うと歯の表面のエナメルの石灰化が十分ではないと言うことです。
永久歯は唾液などの影響によって、徐々に石灰化が進んできます。
しかし、はえたばかりの「幼若永久歯」の場合は歯の表面にあるエナメル質の石灰化と成熟が進んでいないのです。
そのため虫歯に対する耐性が低く、虫歯になりやすい状態なのです。
②永久歯の溝が非常に複雑な形をしている
これは中心結節がある歯にも当てはまることなのですが、はえたばかりの永久歯の臼歯は複雑な溝の形態になっています
中心結節は部分にとげのような中心結節がそびえ立っているような状態になっています。
中心結節の周りの複雑な水についても虫歯になりやすいので注意が必要です。
③歯の神経が成熟した永久歯に比べ大きさが大きくかつかつ神経の先端が完成していない
歯の神経が大きいことによる弊害については他のチャプターで詳しく説明します。
成長に従い永久歯の神経は小さくなっていきます。
また、永久歯の神経は人が成長していくに従い細くなって先端が完成していきます。
最初の神経が太い状況では治療が困難になります。
3.中心結節が出来る理由について
中心結節が出来る原因については不明な点が多く良く解っていません。
しかし、歯の形については、多くは遺伝的要因によって決定されます。
その他には歯が出来る時期に色々な因子が加わって歯の形がきまります。
中心結節が出来ることを事前に防ぐことができないのが現状です。
多くの場合は遺伝的要因が強いと考えられるので、自分自身にこのような中心結節があったのならばお子さんにも注意をしていた方が良いでしょう(パートナーの方にも質問するのが一番ですが、頭に入れておくレベルで良いでしょう)。
4.中心結節が折れるとどうして困るのか?またその治療法について
中心結節の部分に歯の神経が入り込んでいる場合と入り込んでいない場合があります。
このように区別する理由には神経が入り込んでいるか入り込んでいないかによって折れた時に影響の度合いが大きく違うからです。
入り込んでいる場合で、歯の神経が出てしまう場合は歯に対するダメージが最も大きくなってしまう可能性があります。
そして、中心結節に神経が入り込んでいるかどうかを正確に診断するのは困難なことが多いです。
CT撮影を行えば診断は可能でしょうがレントゲン被曝の問題があります。
入り込んでいても削る必要がある場合は、削っている間に歯の神経がでてしまう(露髄)こともあります。
そのような場合は中々対処が難しいのが現状です。
一般に、噛み合う可能性が高い場合は削る処置が一般的になります。
折れてしまった場合は折れた部分が「尖って舌にひっかかる」もしくは「尖って舌が痛い」などの症状を訴えることもあるので注意が必要です。
①中心結節に歯の神経が入っていない場合
この場合、よほど深く折れてしまわない限りは、非常に大きな問題にはなりません。
中心結節が折れてしまった部分に「しみる」と言う症状を訴えることが多くなります。
また、中心結節が折れてしまった部分は虫歯になり易いので注意が必要です(エナメル質の下にある象牙質という石灰化の低い部分が直接露出してしまうためです)。
〇治療法について
この場合は中心結節があたりそうな部分を注意深く削ってあげて、コンポジットレジンというプラスチックに似た材料を削った部分につめてあげることによって様子をみます。
②中心結節に歯の神経が入っている場合
1)歯の神経が入っているけれども折れるのが浅い場合
この場合も「しみる」などの症状を訴えます。
ただし歯がはえる事によってさらに深く折れてしまう可能性もあるので注意深い管理が必要になります。
〇治療法について
この場合も浅い折れであれば、4の①と同じ対処方法になります。
中心結節を削って、コンポジットレジンを削った部分につめてあげることで対処します。
2)歯の神経が入っていてさらに折れるのが深い場合
可能性は低いですが、中心結節が折れることによって、歯の神経がでてしまうことがあります。
この場合は痛みを訴えることがあります(最初は激痛ではありません)。
最初に激痛ではない理由は、歯の神経が出ても感染を起こさないと急激な痛みを訴えることは少ないからです。
しかし、お口の中はばい菌だらけですから、感染を起こして何らかの原因(多くは食べ物ですが)が加わることで、激痛になります。
この状態は歯髄炎といって歯科で最も痛みが強い病気にかかってしまうのです。
更にその状態で歯の神経が直接お口の中にでるので想像を絶する痛さです。
この場合は速やかに歯科医院に行かないと暫く激痛が続くので注意が必要です。
〇治療法について
この場合は2つの治療法があります。通常の成熟した大人の永久歯で用いる根の治療法は行うことができません。
通常の永久歯に行う歯の治療は、歯の神経があった部分を機械で綺麗にして緊密に詰めてあげることができれば治療が終了します。
しかし、「幼若永久歯」に関しては歯の神経の先端が完成していないために緊密に詰めてあげることが難しくなるのでとても特殊な方法で治療を行わなければなりません。
専門用語で、いうと呪文のような言葉で、アペキシフィケーションとアぺキソゲネーシスという処置です。
ただし、web上で調べてみても出てきますので、興味がある方はweb上で調べてみるのも良いでしょう。
(1)歯の神経を上の部分で切断する方法(アフェキソゲネーシス:apexogenesis )
これは、感染している歯の神経を上の部分で切断して薬(MTAや水酸化カルシウムなど)をいれて未完成な歯の神経を完成させる目的で行う方法です。
上手くいけば、通常の永久歯とあまり変わらない治り方をするので、可能であれば(2)の方法よりもこちらの方法を行った方が良いでしょう。
失敗すること(残した神経が感染してしまうこと)もあるのでその場合は(2)の方法に移行します。
ただし、感染部分が大きくてコントロールできない(痛みや腫れが生じること)場合は残念ですが抜歯の可能性が高くなります。
感染していて神経の先端が開いているので再植(一度意図的に抜いて埋めなおす事)も適応にならないからです。
(2)歯の神経をとって正常な歯と同じ治り方を期待する方法(アペキシフィケーション:apexification)
この方法は、歯の神経が未完成な感染した部分を可能なだけ取り除いて、その部分に水酸化カルシウムというお薬を入れて未完成な神経部分を完成した永久歯の神経の形に近づける方法になります。
通常、永久歯の歯の神経に対する治療は余程のことが無い限り、数ヶ月におよんで歯の神経があった場所にお薬を入れることはありません。
しかしこの方法では、早ければ数ヶ月(研究によって異なります)、長ければ4年間お薬を入れて歯の神経が未完成な形を普通の永久歯の形に近づける処置を行わなければならないのです。
非常に手間がかかる処置になります。
私自身は中心結節が破折した歯に対してこの処置を行ったことはありません。
しかし、虫歯が原因で「幼若永久歯」の歯の神経が化膿してしまった処置を行ったことがあります。
最初、膿の出てくる量が非常に多くかなり難儀をした記憶があります。
最終的には、数ヶ月かかって何とかなりましたが、最初に患者さんと保護者の方に説明するときにうまく治らなかったら大学病院を紹介するからと言う説明をして治療を行った症例でした。
このように非常に苦労した使用でも通常の永久歯よりも持ちが悪くなりますから(ヨーガ不良)中心結節の破折に関しては注意をしなければいけないのです。
ただし、このような複雑な処置を行っても治療が100%成功する訳ではありません。
成功率は通常の永久歯よりも低くなるので注意が必要です。
参考文献:
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木村 光孝.他:幼若永久歯の歯内療法学–基礎と臨床-,クインテッセンス出版株式会社,1997,pp.126-127.
5.中心結節がある場合は正しく歯科医院で管理が必要な理由
お子さんに中心結節が出来ているかどうかを把握した後の管理はご自宅で行うことはできません。
中心結節が噛み合うかどうか一般的に素人の方が判断することは難しいからです。
歯科医師は噛み合うかどうかの判断を特殊な器具で判断します。
①咬合紙について
噛み合っているかどうかの判断は咬合紙と言う特殊な紙を用いて判断します。
この写真の紙は赤ですが、噛み合うとこの赤の色が噛み合った歯に付きます(この他にも青い色の咬合紙があります)。
②ワックスについて
ワックスとはろうのことで、基本的な成分はロウソクなどに使用されるものとあまり変わりはありません。
しかし、生体に使うので色々な生体試験をパスした、お口の中に入れることができる特殊なろうです。
写真に映っているのはパラフィンワックスとユーティリティーワックスです。
このワックスを噛ませることで噛んだ時にどれくらい「噛む隙間があるか」の判定を行うことができます。
③噛む部分の隙間を計測するデバイス
写真ではあるワックス(パラフィンワックス)の厚みを計測しています。
この場合は1.5mmです。
これらの特殊な器具が一般的な家庭にはないため、歯科医院で診断してもらうしかないのです(歯を削る器具もないですよね)。
まとめ
中心結節が折れて、虫歯や歯の神経にまで折れが達してしまうと大きな問題になります。
特にはえたての永久歯で、歯の神経の処置は難しくなります(虫歯からも歯の神経に達して神経に対する処置が必要になることがあります)。
はえたて永久歯の噛む面に突起のような中心結節が見られた場合は歯科医院にいって診断を受けて下さい。
適切な時期を逃してしまうと、問題につながります。
YOU歯科 院長 歯学博士 石井 教生
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